記憶を辿る〔第一回〕


この駅に降りたのはいつ以来だろう。思い出せない。

このお店の左隣り、ロータリーの角は本屋だったと思う。少し薄暗い本屋で、如何わしい本を買うのに最適と思われた。店の奥に闇があるようで、すごく奥行きがあるように思えたり、しかし狭かったような記憶もある。もう店は無い。

向かいのファミリーマートでパンとお茶を買った。お手拭きを付けてくれて、若い男の子なのに気が利くなと思ったけど何も言わなかった。



山側にも出口があるが、北側の出口からわざわざ回った。忘れていた何かが見つかるかもしれない。数回行ったことのあるラーメン屋さんは無くなっていた。「うまい」と思ったり「よく分からない」と思ったり。跨線橋を渡る。錆だらけじゃないか。



ここから山を登ることになる。正面に見える家屋はいかにもな田舎の日本家屋で、山梨に行くとよく見かけるような建物だが、この道で見た記憶があまり無い。しかしこの道は何度となく歩いた道。うつむいて歩いていたのかもしれない。



少し先の左側にカフェギャラリーがある。かなり昔からあって、以前は黒を基調としていたような。今は白。入ったことは…一度あるかもしれない。無いかもしれない。

通りかかった時、店主と思われる方がちょうど外に見えて、なんとなく思わせぶりな笑みを浮かべたような気がした。かつては全く縁のないような世界だと思っていたけど、似たようなことを自分でやるとは思わなかった。そんな話をしたいと束の間思ったが、先へ進む。



この坂は登らず、左へ曲がる。帰りはここを下りてこようと思う。



車で登るのが怖いくらいの急斜面を登る。見下ろす。



また前を見る。左側に手すりが見える部分が、階段だった。階段を選ぶか、カーブの急斜面を選ぶか。気分で変えたり、行き帰りで変えたり。でももう階段の選択肢は無いらしい。



これは坂だけど、坂と呼ぶには、急すぎないか。



街が見渡せる。街の名前は何だろう。



カーブの急斜面を登り切った所に、国民宿舎「グリーンロッジ」があった。名称が正確か分からない。…跡形も無いな。ヨーロッパの城みたいな形の建物で、遠くからも見えた。実は中に入ったことは多分一度。子供の頃に、なんだろう、少年野球の何かかな。じっくり中を見てみたかったな。あの異質な建物の前を通勤通学の時にいつも平然と通っていたんだから、変な感じがする。



古い消火栓が残されてた。グリーンロッジ用なのかな。古い消火栓があると写真を録りたくなる。分厚い鋳物の、金属の塊はとても魅力的。



さて、ここを登る。山だな。坂では無い。



LEDの照明が点いていた。薄暗くて昼間でもセンサーでオフにならないのかな。木漏れ日がきれい。あらためて歩いてみると、この道を通勤通学路とするには、体力的にも防犯の観点からも無茶な気がする。高校生の時だってヘトヘトだった。



カサカサと後ろから人の気配がすると、やや緊張する。息が上がっているが、息を潜める。「自分はまだまだ大丈夫です余裕で登っています」という、素振りを見せる。または見せたい。不審者の可能性もある。そんな緊張感を思い出した。

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