イップスの恐怖を思いだす

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ああ、夢を見ていた。高校のグランドを遠巻きに歩いている。向こうで野球部が練習をしている。ぼくはすごく居心地の悪い気分で、惨めな気持ちで、歩いていた。

起きたらそのままの気持ちだった。
そしていろいろ思い出す。

小学生の頃から野球少年だった。体はちいさかったけれど、わりと器用なほうで、わりと(わりと)上手なほうだったと思う。
中学生の頃にはサイドスローだってランニングスローだってグラブトスだってヒョイヒョイできた。あんまり打てなかったけどね。

高校に進学後、当然のように野球部に入部。意気揚々と憧れの高校野球界へ、だ。
ところが入部してしばらくすると、突然ボールが投げられなくなった。監督や先輩に萎縮するあまり、だと思う。それがキッカケだったとは思う。

ボールが投げられない、って普通に野球やっている人にはたぶん理解できないと思う。具体的に私の症状は、指先の力が調整できなくなったこと。

考えてみると野球のスローイングってとても複雑な動きをしている。体全体、まず脚、腰、同時に腕はこう、肩はこう、肘はこう、腕、そして指先へ。全身の完璧な動きが必要。
実はそれまで何も(肘の位置についてくらいは考えたが)考えずにボールを投げていた。投げることができたからだ。で、突然分からなくなってしまった。スローイングの構造を考えだす。たしか練習を外された気がする。別メニューだったか。つるっつるの高校生が惨めな思いでそれまで空気を吸うくらいの気持ちでできたこと、について考えだす。練習をする。ドツボにはまる。視野は極端に狭くなる。

子供だもの。今思えば。何もかも分からなくなり、体の動きがぎこちなくなる。悪い連鎖。そして一番の症状である指先の感覚の喪失。力が入りすぎる。力が入らない。どちらも。ボールを投げようとすると感覚を失う。指先をぼやっとした痺れの膜が覆っているような、そんな感じだった。

その後、少しは改善したけれど、ボールを投げるのが精一杯な自分が試合で活躍できるわけもなく、途中でやめたくない、という意地だけで野球を続け、高校生活を終えた。
以来、根性がねじ曲がり、こんな人間になってしまった。なんてことはない。最近人間的に大分成長しました。うふふふふ。

30代の時だったか。テレビか何かで「イップス」という言葉を知った。「スローイングイップス」。精神的な原因でボールが投げられなくなる。「これだ!」と思った。まさにスローイングイップスだったのだ!と。
病名を知ると救われる、て言うけどまさにそんな感じだった。ほんとうに。そうか、イップスだったのか…そうか…なんだょ…。

あの頃、指導者にお前はイップスだ、精神的なものだ、と告げられていたら、どんなに救われたか。と今思う。
そして、現在指導者をしている人には、そんな子供がいたら、「それはイップスって症状だ、よくあることだ」と言ってやってほしいのです。お願いします。

ちなみにイチローがある時期イップスだったという噂を聞いた。そして乗り越えたと。
乗り越えられる人もいる。

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